• 日本であまり知られていない金素月キム ソウォル(1902-1934 明治35-昭和9)の詩とその時代背景をいかに読むのか。兼若かねわか逸之としゆき先生がさまざまな角度から分析し、対話形式でやさしく面白おもしろく解説します。下の表の各タイトルをクリックすると縦書き文庫で読むことができます。Click the author Katarushisu right here!

    金素月김 소 월の詩と韓国文化 (順不同)
    素月소 월鐵橋てっきょう 全17回
    素月ソウォル凧揚たこあ 全18回
    山有花산 유 화 全18回
    つばめ제 비 全15回
    招魂초 혼 全22回
    樹芽수 아(木の芽) 全15回
    つつじの花진 달 래 꽃 全15回
    失題실 제の秘密 全19回
    オンマヤ엄 마 야ヌナヤ누 나 야 全25回

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  • ハングルの詩のある風景 : 素月と鉄橋 第17回

    詩子アナ:さっき「オンマヤ・ヌナヤ」の詩碑の写真、見つけました。「往十里」のほうもスマホですぐ探してみます。

    オンマヤ・ヌナヤ詩碑 (醴泉、漢川辺り)  往十里…김소월 : 네이버 블로그 (naver.com)

    歌樽先生:「オンマヤ・ヌナヤ」、なかなか貫禄のある詩碑ですね。

    詩子アナ:「往十里」の詩碑は芸術作品のようですね。それに素月の胸像もありますね。

    歌樽先生:そろそろ、「남의 나라 땅」の訳詞をしてみましょうか。

    詩子アナ:では、まず治安維持法制定前の1月1日の詩です。

    남의 나라 땅            他国の地

    돌아다 보이는 무쇠다리      肩越しの鉄の橋をば

    얼결에 뛰어 넘어오니       ふいと小走り渡り切り

    숨 그르고 발 놓는 남의 나라 땅.   一息ついて足を置く他国の地

    (『東亜日報』1925.1.1)

    次に、治安維持法制定後の12月26日発行の詩です。

    남의 나라 땅            他国の地

    돌아다 보이는 무쇠다리       肩越しに鉄の橋

    얼결에 띄워 건너서서       つい川下り岸に立ち

    숨 그르고 발 놓는 남의 나라 땅.    一息ついて足を置く他国の地

    (詩集『진달래꽃』1925.12.26)

    歌樽先生:訳詞に苦労の跡が見えますね。

    詩子アナ:まだ、未解決のところがあるんですが。

    歌樽先生:未解決の部分のない訳詩というのはありませんよ。一段落して、また後で考えましょう。

    詩子アナ:そう言っていただけると、少し安心しました。この鉄橋を渡った人は緊張したままなんでしょうか、安堵の気持ちの方が強いのでしょうか。

    歌樽先生:「발 놓다: 足を置く」の前の「숨 그르고: 息を整える」が「맘을 놓다: 安心する」と相通ずるように読めますね。

    詩子アナ:では、「발: 足」アンド「맘: 心」が「安堵」ということで、よろしく。

    歌樽先生:はい、了解しました。美味しいものでも食べにいきましょう。

  • ハングルの詩のある風景: 素月と鉄橋 第16回

    歌樽先生:では、アシとススキを比べてみましょう。

    第19問:ススキとアシの写真が2枚ずつあります。どの組み合わせがススキでしょうか。写真: koreasanha.net/infor/theme_11_2.htm

    1) a, b   2) b, c   3) c, d   4) d, a

    a
    b
    c
    d

    詩子アナ:a, c と b, d の‘組み合わせがないのですが、このどちらかがアシの組み合わせということですね、きっと。

    歌樽先生:あまり、考えないで組み合わせを作りましたが。

    詩子アナ:アシは水辺、ススキは丘というふうに覚えていますから、これを生かして、丘らしく見えるbの入った、a, b か b, c の二択に絞りました。ススキは下から撮った方がススキらしいので、決めました。

    第19問:答は、2) b, c 、です。

    詩子アナ:「枯れすすき」の歌のことですが、韓国の人はこの歌を知っているのですか。

    歌樽先生:「船頭小唄」ですか。これを知っている人はもうほとんどいないでしょう。長らく日本語の歌は禁止されていましたし、若い人が日本語を学んでもこの歌に会うことはまずないでしょうから。金素月の曾孫娘の김상은(金サンウン)さんが「オンマヤ ヌナヤ」を歌っていますので、聴いてみましょうか。

    엄마야 누나야 (김소월 증손녀가 부른) Song 김상은 Produced by 이권희 – Bing video

    詩子アナ:どこか悲しく、澄んだ声で、心も現われるようで、素月の詩のイメージと重なってしまうのですが。

    歌樽先生:曲調にもよるんでしょうね。あかるい感じで歌っている歌もありますよ。

    왕십리(往十里) 김소월 시 김상은 노래 Produced by 이권희 – YouTube

    詩子アナ:これも金素月の詩ですか。

    歌樽先生:そうです。「往十里(왕십리:ワンシムニ)」という詩で、往十里駅前の公園に詩碑が立てられています。

  • ハングルの詩のある風景: 素月と鉄橋 第15回

    歌樽先生:「얼결에 띄워 건너서서」では何を浮かべて渡ったのかについては書いていないのですがこれはなぜでしょうか。

    詩子アナ:船と書くと船が、ヨットと書くとヨットが取り締まりの対象になるかも知れないので、それとなく何かで向こう岸に渡ったことが分かればいいと思ったからでしょう。それから、「얼결에」ですから、何かバタバタしていて、何でなければいけないということもないでしょうから。

    歌樽先生:するどい深読みが出来るようになりましたね。

    詩子アナ:Oh!ヤッター。褒められるとは思っていませんでした。当時は本来考えなくてもいいようなところで神経をすり減らしていたんですね。

    歌樽先生:そういう時代でしたから、何もかも大変でしたね。

    詩子アナ:3行目の「숨그르고」はどんな意味ですか。

    歌樽先生:「숨 가누다:息を整える」の平安道の方言だそうです。これで、2つの「남의 나라 땅」というタイトルの詩を訳す準備ができたようですね。

    詩子アナ:あの、一つ気になっていたのですが、「枯れすすき」の歌の歌詞のところは日本語のままなんですか。

    歌樽先生:ああ、「忍従」という詩ですね。原文は「船頭小唄」の出だしの部分を日本語のまま「オレハ河原ノ枯ススキ」と書いてあります。朗読では韓国語に訳したものを使っています。聴いてみましょう。

    인종(忍從) (김소월 詩) : 네이버 블로그 (naver.com)

    詩子アナ:「나는 냇가의 마른 갈대」と訳していましたね。

    歌樽先生:「나는 냇가의 시들어 버린 갈대」と訳したものもあります。素月のこの詩では文脈からこれが歌であることがよく分かるように書かれています。

    第18問:「枯れすすき」は「船頭小唄」というタイトルで有名になりましたが、素月のこの歌についての評価は次の内、どれでしょうか。

    1) 優  2) 良   3) 可  4) 不可

    詩子アナ:さっき聴いた「忍従」という詩の中に、こんな歌、歌うんではないといったニュアンスの内容があったようですので。

    第18問:答は、4)不可、です。

    歌樽先生:そうですね。「私たちには私たち祖先の歌がある」とも言っていますね。

    詩子アナ:ススキは「갈대(葦:あし)」ではなくて、「억새(薄:すすき)」ではないのですか。

    歌樽先生:河原だから、水辺ということで「갈대」だと考えたのでしょう。韓国の年配の人であれば歌手の朴一男(박일남)といえば「갈대의 순정:葦の純情」とすぐ出て来ます。テレビではこの歌の背景に葦が映し出されることが多いのですが、実は葦か薄どちらかよく分かりません。ちょっと聴いてみましょう。

    추억의 노래 #갈대의純情/♬박일남♬(1966年) #Aegisub Effect – YouTube

    詩子アナ:いろんな葦が画面にでてきますが、「갈대(葦:あし)」は白くないようですね。素月の詩の「엄마야 누나야(オンマヤ ヌナヤ:母さん、姉さん)」に「갈잎의 노래(葦の葉の歌)」という歌詞がありますが、これを「억새:ススキ」に読み替える訳にはいきませんね。

    歌樽先生:「アシ」と「ススキ」はよく似ていますが、イメージはずいぶん違いますね。この違いを知りたいようですね。

    詩子アナ:そういう訳ではないのですが、友達から「엄마야 누나야(母さん、姉さん)」の詩碑の写真が送られてきまして、ちょっと気になっていましたので。

  • ハングルの詩のある風景: 素月と鉄橋 第14回

    歌樽先生:汽車の下に張り付くのは難しいでしょうね。「007」の映画のようになってきましたが、動いている列車に跳び乗った人もいたようですし、老人や行商人に変装したり、二重底になった舟で密航したり、冬には川が凍りますので、監視の目の届かないところを渡ったりしたようです。

    詩子アナ:そういうお話を聞くだけでも、胸がドキドキしてきます。そういうことがあったということが分かるような訳詞でないとだめでしょうね。

    歌樽先生:この詩にある「무쇠다리:鉄の橋」とタイトルの「よその国:남의 나라 땅」と言っただけで、当時の状況は分かりますから、そこのところを忘れずに訳詞できれば十分です。

    詩子アナ:でも、すぐ捕まるようではいけませんね。

    歌樽先生:そうですね。捕まらないようにしている訳ですから、渡る前も渡ってからも捕まらないようにしなければなりませんね。「돌아다보면 무쇠다리」ではなく、「돌아다보이는 무쇠다리」とした理由がわかりましたか?

    詩子アナ:はい。「돌아다보이는 무쇠다리」であれば、自分で見たのではなく、見えた訳ですから、なぜ見たのかという問いが成立しませんね。渡ってきた橋をまた見ていると、捕まるかもしれないという恐れもあるでしょうし。

    歌樽先生:そうですね。こういう流れで、「얼결에 뛰어 넘어오니」を考えてみましょう。

    第17問:なぜ「얼결에」という語が選ばれているのでしょうか。

    • 1) どうすればよいか分からなかったため 
    • 2) 気付いたらもう橋を渡っていたから
    • 3) 橋を渡った意図を明らかにしないため  
    • 4) 警備が厳しく気が気でなかったから

    詩子アナ:これはもう、完璧です。

    第17問:3) 橋を渡った意図を明らかにしないため、です。「民族独立運動をしたり、中国で一旗揚げようなどというつもりなどもともとなく、ただ何かの弾みで、つい来ちゃったんです」という感じです。  

    歌樽先生:解説つきで、分かりやすくなりましたね。この「뛰어 넘어오니(走って橋を越えたので)」は1925年の1月1日付の「東亜日報」のもので、同じ年の12月26日発行の詩集『진달래꽃』では、そこのところが「얼결에 띄워 건너서서」となっています。詩語を変更した理由はなんでしょうか。

    詩子アナ:先ほどの「治安維持法」や「三矢協定」などで、民族の独立を訴えたり、そのための運動をする側にとっては大きな痛手を受けて、鴨緑江の鉄橋を歩いて渡ること自体、ほぼ不可能になったからではないかと思います。

    歌樽先生:そうですね。鴨緑江鉄橋を駆け抜けることは現実的に不可能になったために、鉄橋の上ではなく、その下を船か筏かヨットかを浮かべて渡るという風に詩の内容を変えたものと思われます。当時の鉄橋の絵葉書が残っていますから、見ておきましょう。

    詩子アナ:鴨緑江鉄橋の近くにいろんな船が浮かんでいますね。

  • ハングルの詩のある風景: 素月と鉄橋 第13回

    詩子アナ:自分の方から橋を見たくて見るというのはダメなんですか。

    歌樽先生:そのあたりを考えてみましょう。素月自身は鴨緑江鉄橋まで行って詩にしています。

    詩子アナ:橋の上はこんな風だったんですか。のんびり歩いているようにもみえるのですが、

    歌樽先生:手前が安東側、今の丹東側からの写真ですね。「箱根の関所」とか「兵隊さんが鉄橋を守備」などの文字がみえますね。

    詩子アナ:ところで、素月の詩にはどんな風に書かれているのですか。

    歌樽先生:タイトルは「봄과 봄바람과 봄비(春と春風と春雨)」です。途中にこんな内容があります。

    이곳은 國境, 朝鮮은 新義州, 鴨綠江鐵橋, 

      (ここは国境、朝鮮は新義州、鴨緑江鉄橋、)

    鐵橋위에 나는 섰다. 分明치 못하게? 分明하게?

     (橋の上に我立てり。ひっそりと?堂々と?)

    詩子アナ:なるほど。「分明치 못하게? 分明하게?」は他にどんな訳が可能ですか。

    歌樽先生:「俯いて?胸張って?」「我いづこ?我ここに?」「知られぬように?知られるように?」こんなところでしょうか。

    詩子アナ:新義州の側から鉄橋に立ったという詩ですね。あの、一つ気になることがあるのですが、鴨緑江の橋を渡るときに、捕まった人はどうなるのですか。

    歌樽先生:捕まると取り調べられて、罪となれば、刑に服さなければなりませんね。

    詩子アナ:捕まらない工夫というのはないのですか。

    歌樽先生:工夫はいろいろとあったようです。

    第16問:鴨緑江を渡る際、捕まらないための工夫にはどんなものがあったでしょうか。

    詩子アナ:えっ! ちょっと荷が重いのですが。ヒントがあればなんとか考えられるかも知れませんが、全くお手上げです。

    歌樽先生:ヒントですか。詩子さんはどこの出身ですか。

    詩子アナ:京都ですが、ああ、そういうことですか。

    歌樽先生:ヒントになったようですね。

    詩子アナ:大ヒントです。日本人か中国人であれば捕まらないという前提ですが、

    第16問:京都弁で話す。

    歌樽先生:なるほど。それは一つの答えですね。京都弁ができれば、なんとかなるでしょう。

    詩子アナ:Oh! 「おおきに!」では、江戸っ子という感じでもなんとかなりますか。

    歌樽先生:なんとかなった場合もあるようですね。「てやんでぃ、べらぼうめ。こちとら江戸っ子でぃ」といって、難を逃れたという話を直接伺ったことがあります。

    詩子アナ:ほかにもあるのですか。

    歌樽先生:いろいろあったようですが、検挙数は鴨緑江の検問所が一番多かったとも言われています。

    詩子アナ:それは、大変ですね。日本語が上手でない人もいるでしょうし。汽車の屋根の上というのはあったんでしょうか。

    歌樽先生:汽車の屋根の上よりももっと危険なやり方があったようですよ。

    詩子アナ:では、汽車の下に張り付いていくのはどうでしょうか。

  • ハングルの詩のある風景: 素月と鉄橋 第12回

    詩子アナ:なにか対策はあったのですか。

    歌樽先生:朝鮮独立運動の取り締まりを目的とした「三矢協定」が、1925年に中国側の警務処処長の「于珍」と日本側の朝鮮総督府警務局長の「三矢宮松」との間で交わされました。そして、朝鮮の独立運動家を識別するための対策が準備されました。

    詩子アナ:「識別」ですか。これはおだやかではありませんね。

    歌樽先生:捕まえるための対策ですからね。

    第14問:識別の基準として挙げられていないものは次の内どれでしょうか。

    • 1) 万年筆の所持 
    • 2) 煙管(キセル)の所持 
    • 3) ハングルの判子の所持 
    • 4) 時計の所持

    詩子アナ:いつも持っているとはいえないものもあるようですが。

    歌樽先生:服装とか肌の艶とか、日焼けや手のひらの柔らかさとか総合的に判断したようですから、一つ二つなくても識別には差し支えなかったようですよ。

    詩子アナ:当てずっぽうでやってみます。

    第14問:答は、2) 煙管(キセル)の所持、です。1970年代に韓国で外国たばこを吸うと逮捕されると聞いたことがあります。だからタバコ関連のものは所持しないのではないかと思いました。

    歌樽先生:当時は紙に刻みたばこを巻いて吸っていたようで、煙管は使われていなかったそうです。

    詩子アナ:答はあっていても、理由が違っていましたね。残念!

    詩子アナ:鴨緑江の鉄橋を渡るときに検問のようなものはなかったのですか。

    歌樽先生:ありましたが、そこをうまくすり抜ける人もいたようです。

    詩子アナ:どうやってすり抜けるのですか。

    歌樽先生:ここで登場するのが「얼결에」ということでしょうね。

    詩子アナ:えっ!「얼결에」は今回のキーとなるハングルでしたね、すっかり忘れていましたが、意志のないとっさの反応といった感じで捉えればいいのですか。

    歌樽先生:なかなかいい理解だと思います。よしやるぞという積極性のある反応ではなく、受け身的な動きとしての反応と言っていいでしょう。

    詩子アナ:少し褒められた感じがして、久しぶりに嬉しい気持ちです。でも、鴨緑江の鉄橋は簡単にひょいと越えるいった風に渡る訳にはいかないんじゃないんですか。

    歌樽先生:長さも900m越えていますし、橋の上の歩道部分は幅が2.4mしかありませんし、検問所もありますし、さっき見たように独立運動をしているものはいないかとあちこちで見張っていますし、簡単に鉄橋を渡ることはできなかったでしょうね。

    詩子アナ:「돌아다 보이는 무쇠다리」とはどのような気持ちと捉えればいいんですか。

    歌樽先生: なにかしっくりこないようですね。

    第15問:では、橋を前にした気持ちは次のどれに譬喩できるでしょうか。

    • 1) 滑り台の前 
    • 2) 飛び込み台の前 
    • 3) 跳び箱の前  
    • 4) バンジージャンプ台の前

    詩子アナ:慣れていなければ、どれもドキドキしますが、逮捕されるかもしれないという状況を考えると、これしかありません。

    第15問:私の場合、4)バンジージャンプ台の前、です。

    歌樽先生:泳げるようですね。

    詩子アナ:水泳の選手ではありませんでしたが、遠泳などもしましたから。

    歌樽先生:バンジージャンプはしたことがありますか。

    詩子アナ:いえ、ありません。見たことはあります。

    歌樽先生:跳ぶ前の気持ちを表すと、どんな言葉が浮かびますか。

    詩子アナ:「えい、ままよ」という感じでしょうか。これでは自分の選択的行為の部分が含まれているようですから、素月が言いたかったこととはやや距離があるような気がします。

    歌樽先生:実は돌아다보이는 무쇠다리」と言う言い方が普通ではないのです。

    詩子アナ:「돌아다보면 무쇠다리: 振り返れば鉄橋」という意味ではないのですか。

    歌樽先生:意味はそうですが、「돌아다보면」だと自分の方からすすんで橋をみることになりますね。

  • ハングルの詩のある風景: 素月と鉄橋 第11回

    歌樽先生:ともかく大変な年でした。その大変さによって素月が1月の「뛰어」から12月の「띄워」に変えざるを得なかったのでしょう。

    第12問:素月の詩集は1925年の12月に出たのですが、その年に何があったでしょうか。

    • 1) 第1次世界大戦  
    • 2) 3・1運動  
    • 3) 関東大震災  
    • 4) 治安維持法の制定

    詩子アナ:大変な年というだけあって、どれも本当に大変そうですね。第一次世界大戦は確か1914年で、3・1運動は1919年、関東大震災は1923年ですから、分かりました。

    第12問:答は、4)治安維持法の制定、です。これはどんな法律ですか。

    歌樽先生:では、当時の「官報」を見ておきましょう。

    詩子アナ:大正14年(1925)4月22日の官報ですか。初めて見ました。旧字体で書かれていますね。

    歌樽先生:第1条を新漢字に、カタカナもひらがなに直しておきましょう。

    第一条 国体を変革しまたは私有財産制度を否認することを目的として結社を組織しまたは情を知りてこれに加入したる者は十年以下の懲役または禁固に処す。前項の未遂罪はこれを罰す。

    第13問:「国体」とはどんな意味を表しているでしょうか。次の中から選びましょう。

    • 1) 国民主体の国家 
    • 2) 天皇が統治する国家 
    • 3) 国会中心の国家  
    • 4) 軍人中心の国家

    詩子アナ:これは、もうこれしかありません。

    第13問:時代が時代ですら、答は、2)天皇が統治する国家、です。

    歌樽先生:ちょっと易しかったですね。当時は天皇機関説や社会主義運動など天皇の統治する国家に批判的な流れがあり、こうした動きを封じ込めるために多くの学者を集めて「国体」つまり、天皇が治する国家の正当性を明確にしたかったのでしょう。

    詩子アナ:いろいろと分からないことが多いのですが、「国体を変革しまたは・・・したる者は十年以下の懲役または禁固に処す」という語句から推察して、反対勢力を法律の名ですぐに弾圧できるような気がしますが。

    歌樽先生:こういう時代が長く続いて民族の独立を願う運動も弾圧を受けたり、逮捕されたりしましたね。

    詩子アナ:見た目ではアジア人はどの民族か分かりにくいと思うのですが、どうやって区別していた      のですか。

    歌樽先生:なかなか区別が付きにくい場合が多いですね。

  • ハングルの詩のある風景: 素月と鉄橋 第10回

    詩子アナ:いえ、いえ、少々おまちください。Aの二行目は「넘어오니: 越えてきたので」で、Bの方は「건너서서: 渡って立ち」ですから、これははっきり違いますね。目がちかちかしますが、わかりました。先ほどいただいたキーとなるハングルをすっかり忘れていました。もう、大丈夫です。

    第10問:3)「얼결에」の後ろです。Aは「뛰어」、Bは「띄워」でよく似ていますが、違います。

    歌樽先生:では、「띄워」の原形はなんでしょうか。

    詩子アナ:ノーヒントは少しきついですね。

    歌樽先生:ではこうしましょう。

    第11問:「띄워」はある語の使役形ですが、その語は次のうちどれでしょうか。

    1)띄다  2)띠다  3)뛰다  4)뜨다

    詩子アナ:これはもう辞書の力を借りなくては。

    歌樽先生:ええ、どんどん借りてください。

    詩子アナ:まず、意味から、「띄다:目に付く」「띠다:帯びる」「뛰다:走る」「뜨다:浮く」ですから、これらの使役形を探せばいい訳ですよね。やっと燃えてきました。

    歌樽先生:そうですね。燃えてくればすぐに分かりますよ。ここでユンシネさんの「열애(熱愛)」を聴いてみましょう。

    열애 – 윤시내(1982.08.14) [가요 힛트쏭] | Yoon Si-nae [K-Pop Legend] – YouTube

    詩子アナ:何度聴いても、「♪ 태워도 태워도 ♪」のところが胸にジーンと来ますね。

    歌樽先生:正解が見えてきたようですね。

    詩子アナ:はい。お陰様で。

    第11問:答は4)뜨다です。「뜨다」の使役形は「뜨+이우+다」で「띄우다」です。

    歌樽先生:よく分かりましたね。

    詩子アナ:「燃えてくればすぐに分かりますよ」のヒントで分かりました。「타다:燃える」の使役形は「태우다:燃やす」で、「타+이우+다」となっていますから。

    歌樽先生:じつはこの「띄워:浮かせて、浮かべて」が見かけは「뛰어:走って、駆けて」とよくにていて、Bの12月26日発行の詩集『진달래꽃』のこの詩では「띄워」となっていますが、これをAの『東亜日報』 (1925.1.1)に発表された「뛰어」と理解しているものも見受けられるくらいです。例えば崇文社『素月詩集 진달래꽃』(1951)でも「뛰어」を取っています。

    詩子アナ:ところで、今回のキーとなるハングルは紆余曲折はありましたが、얼결에」ということでしたね。どんな意味ですか。

    歌樽先生:「얼결에」は「얼떨결에」の形で使われることが多いのですが、辞書には「うっかり、どさくさまぎれに」などの訳がついています。「つい、思わず、なにがなんだか分からないうちに」といった訳がピッタリな場合もあります。

    詩子アナ:日本語にはなかなか訳しづらい語のようですね。

    歌樽先生:訳語というのはその語のもつ一部の意味や用法を表しているので、完全ではありませんね。例えば、私もよく「うっかり」寝過ごしたり、寝違えてしまったりすることがありますが、こういう時は「얼떨결에」とは言いません。「얼떨결에」には、自分の思いや意志が入っていません。ですから、失敗したりうまく行かなかったといったニュアンスもありません。

    詩子アナ:言葉というのは難しいですね。

    歌樽先生:それもそうですが、実は当時はとても難しい時代でしたね。

    詩子アナ:何かあったのですか。