紙上中継「ハングルの詩のある風景」素月と無主空山 第2回

歌樽先生:歴史と言えば歴史といえるでしょうね。100年以上前ですからね。大正から昭和にかけて女性の権利獲得運動の活動家であった平塚雷鳥(1886-1971)が年下の奥村博史(1889-1963)と1914年に同棲を始めました。その後、岡村は自分が傍にいては雷鳥の活動に支障がでるのではと、別れの手紙を書きました。その中に「若いツバメは池の平和のために飛び去って行く」という内容があったことで有名になりましたね。

詩子アナ:雷鳥と奥村はその後、別れたままだったのですか。

歌樽先生:いいえ、子供もでき結婚届を出すのですが、このあたりは当時の社会状況もあって、なかなか大変なことが多かったようですね。

詩子アナ:韓国には「若いツバメ」のような言葉はあるのですか。

歌樽先生:似たような意味で使われる言葉があります。では、こんな問題を出しましょう。

第2問:日本語の「若いツバメ」に最も近い言葉は次の内どれでしょうか。

1) 젊은 제비(若つばめ) 
2) 풋내기 제비(新米つばめ)
3) 제비족(つばめ族)  
4) 제비 사랑(つばめ愛)

詩子アナ:「若いツバメ」と似た意味の言葉ができるにはそれなりの背景があったのでしょうね。

歌樽先生:そうですね。1970年代には中東の建設ブームが背景にありましたね。

詩子アナ:建設ブームで若いツバメですか?「風が吹けば桶屋が儲かる」みたいですね。

歌樽先生:それほど複雑ではないのですが、夫が中東へ長期出張中に妻の方は有閑マダムとなり、若い男性とダンスをするなどして、大きな社会問題になりましたね。

詩子アナ:夫は遠い中東の暑さの中で汗を流しながら仕事をして妻に送金し、妻は子育てから解放されて時間を持て余し、習いものを始めた。そしたら、お友達から誘われてダンスを習い、そのあたりからおかしくなって、いろいろ大変だったようですね。

歌樽先生:恐ろしい創作力ですね。

詩子アナ:推理力と言っていただければ、もっと嬉しいのですが。

歌樽先生:では、その推理力で第1問か第2問を考えてみてください。

詩子アナ:以前、学んだような気もするのですが、ほぼ忘れてしまっていますので、もう一度詩の内容を見たいのですが。

歌樽先生:こんな詩です。「つばめ」という詩ですが、訳詩もやってみましょう。

제비(NO27) (NOは詩集『ツツジの花』のタイトル順番号)
하늘로날아다니는제비의몸으로도
一定(일정)한깃을두고돌아오거든!
어찌설지않으랴, 집도없는몸이야!

詩子アナ:では、こんな感じでいかがでしょうか。

つばめ(NO27)
大空飛び交うつばめさへ
夕べに戻るねぐらあり!
ああ、悲しきは家なきわが身!

歌樽先生:3行目を「ああ」で始めましたね。

詩子アナ:「어찌:いかで、いずくんぞ」がありますので、試みにこんな訳にしました。

歌樽先生:このハングルの詩は、テオドル・オオバネル(プロヴァンス 1829-1886)が故国を思う詩をプロヴァンス語で書き、これをウイリアム・シャープが英訳し、その詩を上田敏が『海潮音』(本郷書院1905 p. 241)で紹介した訳詩をもとに素月がハングル訳したものでしたね。

詩子アナ:素月はどうしてそんなに手の込んだことをしたのですか。

歌樽先生:オオバネルの詩を訳したものだと言えば大丈夫だと考えたからでしょう。

詩子アナ:大丈夫というのは何が大丈夫なのですか。

歌樽先生:上田敏の訳詩のタイトルは「故国」、素月はそれを「つばめ」としていますね。祖国の独立運動を連想させる詩にはならないように工夫しています。

詩子アナ:独立運動を連想させるとどうなるのですか。

歌樽先生:官憲に逮捕される可能性が高いですね。朝鮮は日本の植民地になっていて、朝鮮総督府は独立運動にとても厳しく対処していましたから。

詩子アナ:オオバネルの詩のタイトルの「故国」というのは原詩のものですか。

歌樽先生:これは鋭い質問ですね。

Posted in

Leave a comment